生活保護 の現状 と課題 (1)
研究 ノー ト
生活保護 の現状 と課題
(1)布川
日佐史
I 生活保 護制度 の概 要
1 生活保護の体系 ´
現行 の生活保護の体系 は、経常的生活費の うち、衣食 のための生活扶助、家賃等住宅費のため の住宅扶助、義務教育 に要す る費用のための教育扶助 と、一時的ニーズに対応す る医療扶助、生 業扶助、出産扶助、介護扶助、葬祭扶助の8種類 の扶助か ら成 り立 っている。
① 生 活 扶 助
〔 景 警 焉 言 男
│[會醤
[曇言 豊
]を21豊番 昇 言
1馨軍
L算等
)②住宅扶助、③教育扶助
④医療扶助、⑤生業扶助、⑥出産扶助、⑦介護扶助、③葬祭扶助
この うち、生活扶助 は個人単位 に消費す る飲食物費や被服費のための第1類費 (年齢別 に額 を 決定)、 電気・ガス代 な ど世帯 として支出される経費のための第2類費 (世帯人数 に応 じて額 を決 定)から成 る。 さらに、「必要即応原貝J」 にもとづ き、特定の特別ニーズ(加齢や障害 に伴 う需要、
ひ とり親 ゆえの需要な ど)を持 った被保護者の実質的最低生活 を確保す るための各種加算がある。
加算 は、特別需要 を定型化 (個別 に需要の量 を認定す るのでな く、あらか じめ一定量 と前提)し
た給付であ り、老齢加算、母子加算、障害者加算、妊産婦加算、介護施設入所者加算、在宅患者 加算、放射線障害者加算、児童養育加算、介護保険料加算の9種類がある。
生活扶助基準
2 生活扶助基準 の改定方式 (=「消費水準均衡方式」)
生活扶助の基準額、すなわち、健康で文化的で、社会的な生活が営めるナショナル ミニマムの 基本額 は、1984年以来、「消費水準均衡方式」に基づいて改定 されてきた。生活保護世帯の消費水 準 と、一般国民の消費水準 とを均衡 させ るとい う考 え方である。具体的には一般勤労世帯 におけ る一人当た り消費支出額 と、生活保護受給勤労世帯 における一人当た り消費水準 を比べて、生活 保護世帯 の一人当た り消費支出額が一般世帯の一人当た り消費支出額の6割台 になるように、最 終消費支出指標 を参考 にして生活扶助 の給付額 を変更す るとい う方法である1。
このように、現代 日本のナショナル ミニマムは、貧困を消費支出をもとに、相対的なものと捉 えている(「相対的貧困」)。 生 きてい くうえで最低 これだけが必要だ という考え方(「絶対的貧困」)
ではない。社会全体の中で、均衡をとれるよう比較 したうえで、この生活水準以下は人間 として 尊厳のある生活 とはいえない、貧困の状態だ という基準 を決めている。勤労世帯の一人当た り平 均消費支出額は、2000年では9.8万円であ り、生活保護受給世帯の一人当た り消費支出額 はその 69%、 6.8万円となっている。
図表1 ‑般勤労者世帯 と被保護勤労者世帯の1人当たり消費支出額の推移
年 度 一 般 勤 労 者 世帯消費支出額
被 保 護 勤 労 者 世帯消費支出額 格 差
S59 75,149 50,447 67.1%
S60 76,518 51,700 67.6°/。
S61 78,161 53,602 68.6°/。
S62 79,350 54,360 68.5%
S63 82,559 56,376 68.3%
H元 86,147 59,058 68.6°/。
H2 90,431 62,182 68.8°/。
H3 94,108 64,220 68.2%
H4 96,254 65,591 68.1°/。
(資料) 一般勤労者世帯 :総務省「家計調査」
1標準 3人世帯 (33歳、29歳
、9歳)
2改定率 H13.14=0(据え置 き)、
(全国1人当た り 単位 :円)
年度 一 般 勤 労 者 世帯消費支出額
被 保 護 勤 労 者 世帯消費支出額 格 差 H5 97,157 66,248 68.2%
H6 97,144 66,726 68。7%
H7 98,529 67,241 68.2%
H8 100,623 68,540 68.1%
H9 100,743 89,048 68.5%
H10 100,553 70,002 69.6%
Hll 98,046 66,931 68.3°/0
H12 98,652 68,396 69。3%
被保護勤労者世帯 :厚生労働省「被保護者生活実態調査」
出所 :社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在 り方に関する専門委員会」第 2回 資料1
平成9年までは、一般世帯の消費額が増 え、生活扶助の給付額 も増 えてきた。平成10年以降、
一般世帯 の収入が減 り、 また物価 も下が り、一般世帯の消費支出額が下がっている。今年の夏か ら順次結果が明 らかになる平成16年全国消費実態調査では、 こうした傾向が顕著になるだろう。
では、それに連動 して生活扶助基準額 を自動的に下げていいのか2、 しっか りした検討が必要で ある。た とえば、厚労省が行 った生活保護利用者の「社会生活実態調査」の結果か ら、生活 を切
の生活扶助基準額=162,170円 (H16東京都 区部)
H.15=99。1、 H.16=99.8、 H.17=100
―‑90……
生活保護の現状と課題(1)
り詰 め、友人や近所 との付 き合いがで きないでいる様子が、明 らかなのである。
まずは、水準均衡方式 にもとづ く消費支出格差 を検証 し、当否 を問い直す こと、その上で、水 準均衡方式 に代わ る保護基準設定方式 を作 り出す こと3、 この二つの作業が必要である。
3 相対的貧困 と生活保護受給実態の乖離
(1)相対的貧困世帯 の分布
消費水準均衡方式 を念頭 において、相対的貧困状態の世帯が どの ように分布 しているのか を示 したのが、図表2、 3である。avは 、平均消費支出額 (AV)の65%の水準である。avの 数値が、
図表1に示 した生活保護受給世帯の消費支出水準(1人当た り月6.8万 円)と ほぼ一致する。 ここ を健康で文化的な最低限の消費水準、すなわち相対的貧困の基準額 とす ることがで きる。 このav の左側が消費水準でみた時の相対的貧困世帯 とい うことになる。「二人世帯」では24.3%、「全世 帯」で見 ると29.1%が該当する。
図表2「全世帯」消費支出階級別世帯分布 図表3「3人世帯」消費支出階級別世帯分布
くグラフSl‑1‑la〉 全世帯 消費支 出階級別世帯分布 0.180
0.1611 0。140
0.120 0.100 0.080 0.060 0.040 0.020
0.000 0
上 6 以 卜 60 55 50
卜45 卜40
卜
30 25 卜 20
・5 0
満 1 未
平リコ(AV) 28,112万円 (1人当 た り10。4万円)
平均xO.65(av) 18,273万円 1人当た り6.8万 円)
av以 下の割合 29.1%
中央値 (M) 25,075万 円 (1人当た り9.3万 円)
中央 値xO.65(m) 16,299万円 (1人当た り6.0万 円)
m以下の割合 22.3%
総務省『平成11年全国消費実態調査』 より作成
くグラフS3‑1‑2a〉 世帯人3人 消費支出階級別世帯分布 0.180
0.160 0.140 0.120 0.100 0.080 0.060 0.040 0.020
0.000 ∞
60 嘘 5 弱 卜
m 45 い
40
∞ 30 あ 20
・5 0
満 1 未
平鶴,(AV) 31,909万円 (1人当た り10.研円)
勁 xO.65 (av) 20,741万円 1人当た り6.9万 円)
av以 下 の割合 24。3%
中央 値 (M) 28,750万円 (1人当た り9.6万 円)
中央罷揉0.65(m) 18,688万円 (1人当た り6.2万 円)
m以下 の割合 18.3%
総務省『平成11年全国消費実態調査』 より作成
(3)生活保護受給世帯 の「増加」 と世帯特性
実際に生活保護 を受給 しているのは、2003年度 lヶ 月平均で、94.1万世帯、134.4万人、世帯比 3社会的排除、剣奪 を指標化する、または自立基盤形成可能性 を指標化するなどした新たな設定方式 を導入する。
もしくは、「所得中位値の60%」 と単純化する。 こうした検討が必要である。
率 は2.0%、 人 口に占める受給者の割合 (保護率)は1.05%である (『社会福祉行政業務報告』)4。
世帯数が2002年度か ら1年間 に7万世帯 (8.1%)増え過去最高 に達 した と騒がれているが、世帯 比率でいえば1980年代 の水準 に戻 っただ けである。 それ と比 べ増 えた といって も受給者 の数 は 1980年代の150万人台 に達 していない。世帯数の急増 と受給人員の増加 との間にギャップがあるの は、単身世帯が急増 しているか らである。
単身世帯が現在では全体 の75%を占めている。年齢別 に見れば高齢者世帯が46.5%と ほぼ半数 に達 し、傷病者・障害者世帯が36.1%である。働 ける人のいる一般世帯が生活保護制度の中か ら消 え、生活保護受給世帯 は単身高齢世帯が突出する構成 となって しまった。その結果、現在の受給 者の受給期間は長 くなっている。
(4)制度 の原則 と実態の乖離
生活保護 の受給要件 としての資産 (ス トック)の保有限度 に現行の厳 しい条件 をつけた ままで も、図表4に示 した ように駒村康平氏の推計 によれば、生活保護 の要件 (フロー とス トックの両 方)をク リアー し、生活保護の対象 とな りうる低所得貧困世帯 は、全世帯の うちの7.7%(一般世 帯4.84%、 単身世帯17.59%)存在す る。
補足性原則 (生活保護法第4条「保護の補足性」)の現行運用基準 を前提 にすれば、29%に及ぶ 相対的貧困世帯すべてが生活保護 を受給で きるわ けではな く、受給要件 を満たすのは相対的貧困 世帯の うちの四分の一 に減 って しまう。しか し、厳 しい要件 をつけて も7.7%の世帯が生活保護の 対象 となる、生活保護 を受 けていて当然 ということなのである。実際の世帯受給率が2%にとど
まっているのは、 まさに運用のゆがみ としか言いようがない。
図表4 低所得貧困世帯率 1984 1989 1994
一般世帯 2.23% 1.94% 4.25% 4.84%
単身世帯 13.200/。 7.79% 25.31°/。 17.59°/。
計 8.70°/0 3.03°/。 8.40% 7.70°/。
出所 :駒村康平「セーフティー・ ネットの構築」(『週刊社会保障』2208号、2002年11月4日 、P.25)
(5)乖離 をもた らす原因
生活保護の手続 きは、中央か らの強いコン トロール5と、現場 の慣習が絡み合い、一部の人 にし か理解がで きない状況 になっている。「補足性の原理」による受給要件 (生活保護法4条 )が、現 4平成16年11月速報値によれば、受給者は143.5万人、100.7万世帯。
51980年 代からの、いわゆる123号通知に基づ き運用の厳格化、包括同意書(預貯金、資産、親族照会)による屈辱 的な調査が実施 されている。
―‑92‑―
生活保護の現状と課題(1)
実の生活水準・ 生活 スタイル、家族関係の変容 に対応 していない。扶養義務 を履行 させ るシステ ムがない。 しか も、法 に違反 し、受給権 を制限す る歪んだ運用が まか りとおって きたのである。
「資産 の活用」:手持 ち金・預貯金の上限は、 lヶ 月の最低生活費の三分の一 に制限 されている。
売 るにも売れない中古 自動車だ ろうと売却が求 め られ る。
「稼働能力の活用」:稼動年齢だか ら、就労可能だか ら保護 申請 を受 け付 けない とい う違法な対 応 を とっている自治体がい まだに後 を絶たない。「能力 を活用 しようにも活用で きない状態」の人 に対 しては、仕事 を探す努力 をしているのか、就職す る意思があるのか、本当に仕事がないのか
という判断が、 自治体 によって異なっている。厚労省 も明確 な判断基準 を示 していない。
現実 には、何 らかの仕事 をしていて も、稼働能力の活用が不十分だ と判断 されて しまう。生活 保護基準以上の賃金 を得ていない限 り、稼働能力 を活用 していない とされて しまうのである。
「私的扶養の優先」:保護の要件だ とか、扶養調査が終わるまで生活保護の認定がで きないな ど とい う誤 った運用 をしている例 も多い。
(6)乖離や歪 みをもた らす背景
第一 に、公的年金が最低生活費 を保障せず、最低賃金が標準的な生活 を保障 しないままとなって いる。こういう前提だ と、生活保護制度 を使いやす くしてお くわけにはいかない ということになる。
第二 に、生活保護法 は、一般扶助の原則、無差別平等原則 を掲 げつつ も、 これ を打 ち消す要素 を内包 している6。
「生活保護の無差別平等原則の中にもいわば『価値 ある貧困者』 とそ うでない ものをふ るい 分 ける装置が不可欠であった と解釈 されていた。」
「一般扶助原理の下で保護 の引 き締 め策が可能であったのは、実質上、受給資格 と同 じ機能 を果たす ことになったにもかかわ らず、要件 という曖昧な表現で これをぼやか した、 この補 足性の原理 に他 な らない。」
4 生活保護が実際 に果た している社会的役割 (1)最後のセーフティー・ ネ ッ ト
生活保護 は、最後のセーフティー・ ネ ッ トとして最低生活 を保障 している。
第一 に、低年金・ 低所得高齢者の一部 を支 えている。すなわち、高齢者全世帯の うちの4.5%、
43.5万世帯が生活保護 を受給 している。その うち、国民年金受給世帯 は、13.6万世帯7、 厚生年金
以下 は、岩田正美「「被保護層」 としての貧困一「被保護層」 は貧困一般 を代表す るか?一」岩 田・西澤編著『貧 困 と社会的排除 一福祉社会 を蝕 む もの』(ミネルヴ ァ書房、2005年 、P.183‑4)より引用。
以下 の数字 は平成14年 のデータ (出所、国立社会保障人 口問題研究所「生活保護 データ」)。
受給 は22万世帯ある。70歳以上の受給者 は335,447人 、60‑65歳の受給者 は139,159人、65‑70歳 の受給者 は154,396人である。
第二 に、傷病者世帯の一部 を支 えている。すなわち、平成14年における保護開始理由が「世帯 主の傷病」の世帯 は、6,700世帯 (保護開始16,900世帯の40%)である。
第二 に、障害者世帯の一部 を支 えている。
第四に、ひ とり親世帯の一部 を (一定期間)支えている。すなわち、母子世帯の うちの11%、
8.2万世帯が生活保護 を受給 している。 その うち、受給期間5年未満が、64%を占めている。
第五 に、精神障害者の「社会的入院」と、在宅での地域生活 を支 えている。入院6.4万人 (1988 年 11.8万人)、 入院外 10.8万人 (同、2.5万人)である。
第六 に、地域生活がで きない人 を支 えている (保護施設の役割)。
第七 に、居宅 を失 った中高年失業者の一部 の人の居宅生活再建 を支 えている
第八 に、収入が減少 した人、失業 した人のほんのわずかを支 えている (実質 は支 えていない)。
「 その他世帯」の保護開始理由で、「『働 きによる収入』の減少・ 喪失」、「定年・ 失業」、「事業不 振・ 倒産」、「その他の働 きによる収入の減少」 は、平成14年で1,003世帯 に過 ぎない。
(2)社会的排除のための手段 になっている =社会的排除の対象 としての受給者像
他方で、生活保護 は社会的排除のための手段 になっている。生活保護以下の消費生活 をお くっ ている圧倒的多 くの低所得者 と比べ、生活保護受給者 に対 し「我慢 してがんばっている人 と比べ ると、甘 えている」、「生存権 を主張するのは特別の人」、「一般の人 と同 じ生活 をすることは、許 されない」 という既成 イメージがある。社会的排除の対象 としての受給者像がつ くられている。
生活保護制度の改革 を論ず るにあたっては、生活保護制度が実際 に果た している役割 を検証 し、
制度の原則 と現状 との間のズンの要因 を明確 にした上で、抜本的な制度改革案 を検討す る必要が ある。
Ⅱ 生活保護の在 り方 に関す る専門委員会「報告書」
1 専門委員会の概要
(1)専門委員会の構成 と議論の経過
社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在 り方に関する専門委員会」は、2003年8月 か ら2004 年12月 まで、18回にわたる検討を行った。委員は岩田正美委員長をはじめとする研究者8名、自 治体代表2名、救護施設長 とケースワーカー各1名、あわせて12名から構成されていた。2003年
‑94‑
生活保護の現状と課題(1)
12月に「 中間 とりまとめ」を提出 し8、 04年12月の第18回委員会で「報告書」を取 りまとめ、その 任 を終 えた9。
(2)見直 しの背景 と方向性
生活保護 の在 り方 をこの時期 に検討す ることになった背景 には、多様 なベ ク トルが錯綜 してい る。「 ソーシャル・インクルージョン」 とい う方向で福祉制度の改革 を目指 してきた流れがある。
現代 日本社会 において、貧困だけでな く、「孤立」や「社会的排除」をな くそうとい う「福祉基礎 構造改革」の潮流である。
それを凌駕 して今回の議論 に枠 をはめたのが、財政制度等審議会建議や政府閣議決定である。
「老齢加算等の扶助基準 な ど制度、運営 にわた る両面 にわた る見直 しをせ よ」 という指示 に答 え ることが、専門委員会設置の大前提 になった10。
足元では福祉事務所の機能不全が深刻化 している。地方分権 と市町村合併の波の中で、福祉事 務所の機構 は改革 され、ケースワーカーの数 と専門性の不足が顕著 になっている。「構造改革」の 進展 によ り生活保護 を必要 とする人が急増する一方で、 自治体 は財政負担 に耐 えかね、必要な体 制 を組 めないでいる。生活保護制度の改革 は必要だが、それによって仕事が増 えるのはたまらな い とい うのが現場職員の実感である。
他方で、生活保護の誤 った運用 を正す訴訟の広が りがある。最高裁で保護受給者が勝訴 した中 島学資保険裁判 と高障害者扶養共済年金裁判 は生活保護の運用の改善 を求めるだけでな く、制度 改革 その ものの必要性 も示唆 した。
しか も審議の終盤 には「三位一体改革」 によって生活保護国庫負担金の引 き下 げが国 と地方の 間の政治課題 となって しまい、最終 とりまとめが延期 され るような状況が生 じた。
これ ら錯綜 した前提 と大枠の中、多様 な立場の委員が集 まった専門委員会であるので、「報告書」
の性格 は一様ではない。
8単身無職の70歳以上 と60〜69歳
の消費支出の比較をもとに、老齢加算を「廃止の方向で見直すべき」と提言した。
厚労省は平成16年4月 か ら、老齢加算の縮減 を行った。
9専門委員会の検討状況については、『公的扶助研究』(No.196、 2005年1月)拙稿参照。
1°国民年金の給付水準 との比較から、「年金空洞化の元凶たる」高齢単身世帯への生活保護給付額 を引き下げるべき との意見が強まっている (日本経団連、内閣府社会保障の在 り方に関する懇談会など)。
2 報 告書 のポイ ン トH
(1)生活保護 の見直 しの方向性 につ いて 制度見直 しの
背景
「社会保障制度の不足分や制度間の谷間を補 う」「最後のセーフテイー・
ネッ ト(安全網)」 だと、生活保護制度の役割を規定。
雇用の流動化、家族形態の変貌が、失業や収入低下はもとより、孤立 や孤独、「ひきこもり」など多様な生活不安を拡大させている。
《従来の貧困だけでな く、社会的排除の拡大 も問題にしている。》
「財政制度等審議会建議等の指摘」を受けた見直 しである。
《指摘は「執行の一層の適正化」 と「生活保護基準及びその他の受給 額基準等について、引下げが必要」 という内容である。》
2 保護の動向 (1)保護率 と
世帯特性 (2)問題の多様化
生活保護制度の 問題点
保護率 は急上 してはいるが、受給者の数 は80年代 の水準 に戻 っただけで ある。被保護世帯数の急増 は単身世帯の急増 によるものである。
特 に高齢単身世帯が増加 してい る。
被保護世帯 は多様 な問題 を抱 え、社会的なきずな も希薄である。
《第2回専門委員会 に提出された「社会生活 に関す る調査」が、社会 的孤立 の実態 を明 らかにしている。》
稼働世帯 において も保護期間が長期化 している。
実施機関担当職員(ケースワーカー)の量・ 質 にわた る不足 によって、実 施体制 に困難が生 じている。
《第8回専門委員会で、「生活保護担当職員の資質向上 に関する提言」
が報告 された。》
①生活困窮者を十分支えられていない、②経済的な給付だけでは限界が ある、③自立・就労支援が不十分、④担当職員個人任せになっている。
制度見直 しの 基本的視点
「利用 しやす く自立 しやすい制度へ」(=生活困窮の実態を受け止め最低 生活を保障する。「バネ」 としての働 きを持たせる。)を明記 している。
《専門委員会では、早めに生活再建支援ができ、予防機能 も果たせる 制度に改善することが、早い自立を可能にし、財政削減にもつなが るとの合意ができた。 どれだけの人が実際に利用できるようにする のかは、今後の課題である。》
《自立・ 就労支援の拡充が、今回の見直 しの重点である。軸足をそち らに移すことになる。》
「自立」・「自立支援」の定義を明記。
《単に就労自立・ 経済的自立を意味するのではな く、社会福祉法でい う自立・ 自立支援である。これは大きな転換を意味する。》
「補足性の原理」 と表裏一体である。
11ここは拙稿「『生活保護制度の在 り方 に関す る専門委員会報告書』の読 み方 一ポイン トとコメン ト」(『賃金 と社会 保障』通号1388号、2005年2月、pp.4‑10)を もとに している。
―‑96‑一
生活保護 の現状 と課題 (1)
(2)生活保護基準の在 り方 について
1 生活扶助基準 (1)評価・ 検証
低所得世帯の消費支出額 との比較において検証・評価 した。
変曲点分析を前提にしたが、今後 もこの手法で定期的に検証する。
なお、生活扶助基準 は基本的に妥当ではあるが、勤労基礎控除を含める と低所得世帯の生活扶助相当支出額 より高い。
《一般世帯 とではな く低所得世帯 と比較 した今回の検証手法が正当な のか疑間である。消費水準均衡方式に基づ く保護基準の検証手法そ のものを見直すことと、質的な指標の検討が必要。》
《生活扶助基準の引き下げを示唆。ただし低所得世帯の消費は最低生 活以下であると問題提起 した とも取れる。》
捕捉率についても検証 を行 う必要があると付記。
《日本の生活保護制度の捕捉率は極端に低いと言われている。生活保 護制度が機能 しているか どうかの検証であり、必須課題である。地 域間の保護率格差を問題 とするのでな く、 この指摘を手がか りに、
地域 ごとの捕捉率を明 らかにし、全国一律に捕捉率100%をめざすの が保護の適正実施だ とすべき。》
設定お よび算 定方法
①多人数世帯への給付が高いので、引き下げる。
②単身世帯への給付が低いので、改善のために単身世帯独自の基準を設 定する。
③年齢区分の幅を見直す (給付削減 となる年齢層もあるが、70歳以上の 基準額の引き上げにもつながる)。
《以上の3点 は、給付改善 と引き下げの両面を含んでいる。》 加算の在 り方
母子加算
加算全体
一方で、「被保護母子世帯の生活扶助基準額 は一般母子世帯の消費支出 額 よ りも高い」、「現行の母子加算 は妥当 とは言 えない」とし、引 き下 げ。 廃止の方向 を打 ち出 した。
他方で、「 しか し、母子世帯 は一般的 に所得が低い」のであ り、「一般 母子世帯 も苦 しい生活状況 にあることか ら、養育 のための追加的支出に も対応す る必要がある、 との意見 も見 られた」 と引 き下 げ・ 廃止へ疑問 を呈 している。
また、「就労 に伴 う追加的な消費需要 に配慮す る」、「世帯の自立 に向け た給付 に転換する」 と形態の転換 を示唆 し、 さらに、子供が大 きくなる ことの影響や、「高等学校 の就学費用への対応」、 自立支援 プログラムの 実施状況 な どとの調整が必要 とした。
《以上 よ り、母子加算 を見直す として も、老齢加算の ように削減が先 行す る事態 にはな らないはずである。》
加算制度全体 の見直 しを検討す る必要がある。
3 級地 地域差 を減 らす。
《大都市では下がる。郡部では上がる可能性 もある。》
4 定期的な評価 被保護世帯の生活への影響 に十分配慮する。
(3)生活保護 の制度・ 運用の在 り方 と自立支援 について
生業扶助
1 自立支援 (1)自立支援
プログラム ア 自立支援
プログラム
①「多様な対応」、②「早期の対応」、③「 システム的な対応」の 3つ が 可能 となる制度にしなければならず、そのためには地方自治体が「自立 支援プログラム」を策定 し、それにもとづ く支援を実施すべきである。
①地方自治体 は、「重層的かつ多様な支援メニューを整備」 し、「被保護 世帯の問題に応 じた自立支援プログラムを策定」する。
《従来のように「職安に行 きなさい」 と指示するだけではな く、その 人にあったメニューを用意 しなければならないことになる。》
日常生活自立支援、社会生活自立支援 も十分整備する。
②「被保護者の同意を得ることを原則」とし、「被保護者が主体的に利用 するものであるという趣 旨」を確保する。
③プログラムや支援の内容は必要に応 じて何度 も見直す。
取組が不十分な場合の、文書による指導・ 指示や、保護の不利益変更
(保護の変更、停止、廃止)は慎重に段階を反復 しなが ら行わなければ ならない。また、「自立支援プログラムがあ くまで被保護世帯の生活再建 を目的 とするものであること、また、生活保護は最後のセーフティー・
ネットであることを十分考慮」 しなければならない。
《文章表現上できるかぎりの限定をつけ、歯止めを置いている。ただ し、実際には制裁の形式的手順規定 と理解され、ス トレー トに保護 の停廃止が行われる危険性がある。》
支給要件を見直 し積極的に活用することを提起 した。
予防的に使えるようにすべきと指摘。
自立支援 推進体制 地方自治体 国の役割
② ア イ
地方 自治体 は、 自らの諸部局・ 諸機関 を始 め、地域 のさまざまな社会資 源 を活用 し、独 自性 を生か した実施体制 を構築する。
実施機関 (福祉事務所)に自立支援 プログラム策定 に責任 を持つ ことの で きる専門的な担当職員 を確保・育成する。
雇用の場の確保への支援 をし、「ハ ローワークが福祉事務所か らの要請 に 基づ き体系的 に就労支援 を実施する」 ようにす る。
実施体制強化の視点 に立 った財政支援 を行 う。
‑98‑
生活保護 の現状 と課題 (1)
(3)教育支援 「高等学校への就学費用について、生活保護制度において対応する」。
《中島学資保険裁判の結果を受けた当然の改革だが、教育扶助で、
は明記していなぃ。》
と
2 資産、能力 の活用等 (1)稼働能力 活用要件
誤った運用を、判例 (林訴訟判決)に沿って正す ことを指摘。
「稼働能力があることを持ってのみ保護の要件に欠けると判断すべきも のではない」。
「総合的評価が必要であり、その客観的評価のための指針を策定するこ とが必要である」。
《保護申請時に就労 していない場合の指針である。「稼働能力を活用 し ていないとは言えない」状態にあることを実態をもとに立証できる ようにしなければならない。》
「稼働能力自体は可変的であり、……活用のあり方 も変わる」。
《稼働能力をある、なしに単純に三分化できない。》
「保護の開始後においては、自立支援プログラムヘの参加状況等に基づ いて……要件 を満たしているか……随時評価する」。
《自立支援プログラムヘの参加状況 しだいで、保護が停廃止される。》 なお、就労 していない人か らの保護申請の場合、「自立支援プログラムの 適用を積極的に進めるべき」。
《最終盤で改訂 された ところであり、要件を二重基準 にせよとした。
申請時に就労 していない人への保護適用へ道をつなげた と言える。》
「そもそも、……要件を見直 し、…… とりあえず保護の対象 とする……
との意見 もあった。」
《稼働能力活用は保護受給権 を発生さす「積極的要件」ではな く、生 活に困窮 していることをもってまずは保護を開始すべきという趣 旨 の意見だが、委員会の合意には至 らなかった。自立支援プログラム の展開によって、今後議論の前提が変わる可能性がある。》
資産 の活用 保護開始時に保有可能な預貯金を拡大することを確認。
《最低生活費の3か月分 まで というのが多数意見であつた。》 保護受給中の預貯金の保有は容認する。
《当然。ただし、「預託制度の活用」を強調 している。》
居住用不動産の相続を問題にし、「 リバース・モーゲージ」の活用を推奨。
《扶養義務 と相続の関係を明確にする必要がある。》
「資産の範囲は、預貯金、土地、家屋、自動車に限定 し、一般的な生活 用品については……原貝Jとして含めない」。
《生活用品については所有を制限しないと明言 した。
ただし、自家用車の所有はそこまでいかなかった。》
(4)制度の実施体制 について
(3)扶養調査 「夫婦・ 親子以外の扶養義務者については、……各地方自治体が調査の 必要性 を判断する仕組みとすべき」。
《自治体 ごとに運用を確定することが必要になる。》
3 保護施設 「社会福祉法の理念 に沿 って、……今後、総合的な見直 しを検討す る必 要がある」とし、「経過的な施設 として位置づけ」、「地域生活への移行 の 支援」、「生活訓練の実施 の場」な どの方向を示 した。
「保護の決定 と施設入所 を分 ける」 ことか ら「累積金の上限」 まで、
多様 な意見が出された。
1 実施体制 (1)財源の確保
「財政事情等によって給付水準や保護の認定・運用のばらつきを生 じさ せることな く、 生存権 を保障する」。
「国の包括的責任の下に事務を行っていること」、「地方のサービス競争 には適さないとの意見 もあった」。
《必要な財源が安定的に確保 されないと、生活保護の過少供給が生 じ てしまうという指摘でもある。》
(2)組織的取組 担当職員の質・ 量の確保 と、組織 としてシステム的に業務を実施する体 制作 りを強調。
《生活保護制度の問題点 として強 くこの問題を指摘 している。 ここで は改善の方向性 を確認 している。 どう具体化するかが課題。》
(3)広域的取組 基礎 自治体 レベルではな く、県単位の広域再編 を示唆。
2 低所得者対策 生活保護 と他の社会保障制度の関連 を指摘。
《年金給付や最低賃金が低いままなら、生活保護受給者が増えて当然 である。受給者を減 らしたいなら、他の社会保障給付水準 を引き上 げるべきである。》
保護脱却に向けたインセンティブの問題 を指摘。
予防・ 予後策 として、住宅等に関する低所得者対策 (住宅手当)と福祉 サービスの充実が必要。
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生活保護の現状 と課題 (1)
(5)その他の指摘事項12
① 積極的な啓発 《低所得者への利用啓発はもとより、国民一般に生活保護制度の役割を 積極的に啓発するという含意。》
② 扶助体系と
給付方法
《住宅扶助単給を求める。「失業扶助」を検討する。》
③ 医療扶助 と 国保 医療券 と スティグマ
④
《医療扶助については、当初、社会的入院(特に精神)による負担が大 き いとの資料が示されたが、今回の検討対象にはならなかった。》
⑤ 第二者評価 《オンブズ・パーソンの設置を求める声もあった。》
3 専門委員会が残 した検討課題
専門委員会 をうけ、検討が必要 となった点 を、三点 まとめてお く13。
(1)「利用 しやす く自立 しやすい制度へ」
専門委員会 は、生活難 に陥った人が生活保護 をなるべ く早 めに利用で きるようにしたほ うが、
生活再建 も早 く、財政支出の節約 にもなるとの合意 をもとに、生活保護制度 を「利用 しやす く自 立 しやすい制度へ」改革す る とい う基本方向 を提起 した。保護受給開始 を早 めるとい う時期 の間 題 としての合意であ り、多 くの人 を受 け入れ財政支出が増加す るのを容認 したわ けではない。厚 労省 内部 か らだ けでな く、閣議決定 をはじめ内閣府や財政審か ら「生活保護財政支出を抑制せ よ」
とい う大枠 をはめ られた中での合意であ り、「早 めの保護開始 は、財政支出を増や しもす るが、減 らす ことにもつなが るだろう」 とい う微妙なバ ランスの上 に立 って提起 した方向性である。
現代 日本社会の貧困の深 まりを前 にす ると、資産・能力活用要件や扶養調査 に関 して「報告書」
が提起 した内容では不十分 なのは確かである。ただ し、早めに利用で きる制度へ という基本方向 は、「入 り口で徹底 的に絞 る」とい う従来の運用や財政審が求 めている方向 とは根本的に対立す る
認専門委員会では一定の議論をしたが、この中に入つていない論点もある。たとえば、勤労控除の額を大幅に拡大 し、貯蓄 もできるようにし、それをもとに保護から出るのに備 えられるようにしたらどうか という議論 をした。
「報告書」には繰 り返 し出て くるがちゃん と議論ができていない点 もある。生活保護法60条、62条及び27条 にかかわる被保護者の義務 と権利、指導指示 とケースワークのあり方である。被保護者は指示に従 う義務がある として、給付制限 と絡めて被保護者の自己決定 と自由を侵害する事例が頻発 している。このままでいいのか と問 題提起 はあったが、議論にはならなかった。
論点になると予想 されていたが、議論 されなかった点 もある。経済給付 とケースワークの分離についてである。
膊拙稿『生活保護制度の在 り方に関する専門委員会』を終えて」(『福祉のひろば』2005年4月 号、pp.32‑35)参 照。
ものである。「不U用しやす く自立 しやすい」という流れがメインス トリームになるように、積極的 に後押 していかなければならない。
(2)稼働能力の活用要件の見直 し
保護受給世帯のほ とん どが非稼働世帯 となっている。勝U用しやす く自立 しやすい制度へ」と転 換するポイン トは、稼働能力のある人が生活保護 を利用で きるようにすることにある。
「報告書」は、判例 をもとに現行 の稼働能力活用要件の解釈 を確認 した上で、今後、「客観的評 価 のための指針 を策定することが必要である」 とした。 ここでの判例 とは、申請時に就労 してい ない状態で保護 を申請 した林 さんが、保護 を却下 され、最高裁 まで争った「林訴訟」の判例であ る。 それゆえ、専門委員会の指摘 は、就労 していない就労可能な人か らの保護申請の際の、稼働 能力活用要件 に関わ る評価指針 を策定すべ しとい うことである。
有効求人倍率や職安 に求人があるというような抽象的な就労可能性 をもとに、就労の場の有無 を判断 してはな らない。本人が抱 える就労阻害要因を踏 まえた上で地域の求人状況 を把握すると している点が重要である。就労 していない人の保護申請時の生活困窮の現実 を踏 まえれば、稼働 能力があって も十分な就職活動 もで きず、就労す るにも就労できないのだか ら、「稼働能力 を活用
していない とはいえないので保護 を適用する」 とせざるを得ない。
ここで確認すべ きは、「報告書」は保護申請時 に「就労 していない人」への適用基準 を論 じてい るのであ り、た とえ十分 な収入が得 られない として も、申請時に何 らかの就労 をしている人 は、
稼働能力 を活用 しているのであ り、保護が適用 されて当然だ と前提 していることである。 こうし た議論の枠であることを確認 してお く必要がある。
なお、報告書 には、就労 していない人か らの保護申請の場合、「稼働能力 を活用する意思がある 旨表明 されれば自立支援 プログラムの適用 を積極的に進めるべ きである」 という文章が入 ってい る。 ここは最後の専門員会で、議論 をもとに改訂 した ところである。申請時 に就労 していない人 へ 自立支援プログラムを適用 し、能力活用要件 をク リアーで きるようにし、生活扶助支給開始ヘ の道 をつなげた と言 える。逆 に、生活扶助支給開始前に「 ワークテス ト」 を課 してしまうことに なる危険性 もある。いずれにせ よ、生活保護 における所得保障金銭給付 と自立支援サービス給付 の適用基準 を区別 し、 自立支援サー ビス給付 については、要扶助状態にある人の意志の確認だけ して早 めに給付 し、支援 を開始 しようということである。生活保護の所得保障金銭給付 と自立支 援サー ビス給付 に、二重の開始基準 を設 けるべ きとの提言であ り、今後の展開が注 目されるとこ
ろである。
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生活保護の現状と課題(1)
(3)自立支援 プログラムの提起
「報告書」 は「 自立」 を、単 に就労 自立・経済的 自立 を意味するのではな く、「社会福祉法でい う自立」であると明記 した。 これは大 きな転換 を意味す る。
自治体 はこの定義 に沿 った多様 な自立支援 プログラムを策定 し、対象者 に合 つた 自立支援 を展 開す ることになる。「 自立支援 プログラム」が今 回の見直 しの目玉である。地域 の資源 を積極的 に 活用 し、地域 に根 ざした施策が展開で きるようにしなければな らない。
ただ し、「報告書」では実施体制や財源保障の裏付 けをしっか り論 じ切れていない。本当に具体 化で きるのか、疑間 と不安が生 じて当然である。 それ と並ぶ大 きな問題 は、 自立支援プログラム ヘの参加 は当事者の自主性が重要だ と指摘 しつつ も、取組が不十分な場合 は保護 の停廃止 とい う 制裁 と結び付 けていることである。今 回、生活保護法60条「生活上の義務」、62条「指示等 に従
う義務」及び27条「指導及び指示」に関す る見直 しがで きなかった。被保護者 は指示 に従 う義務 があるとして、ケースワークの名の下で、保護停廃止 と絡 めて被保護者の自己決定 と自由を侵害 す る事例が頻発 している。こうした実態 を前提 にして自立支援 プログラムが実施 されれば、「保護 廃止=自立」とい う運用が まか り通 りかねない。「被保護者の権利及び義務」を現在の福祉の理念
にあわせて改善す る課題が残 っている。
ここを放置 した ままだ と、自立支援 プログラムを実際に担 うことになるNPOが保護停廃止の手
続 きを肩代わ りす ることにもな りかねない。 こうした ことにな らないような対応が必要である。
今 まで生活保護 として自立 を支援 しように もそのための手段がな く、機械的な対応 をせ ざるを 得なかった とい うのが現場の実態であろう。当事者の抱 える問題 に応 じ、重層的かつ多様 な支援 メニューを整備 し、段階的にじっ くりと支援 してい くとい う自立支援 プログラムの実施 その もの は画期的な変化である。以上 に述べた点 に留意 しつつ、モデル となるような事例 を積極的につ く
りだ していかねばな らない。
4 専門委員会後 の動向
「報告書」が出 されてか らの注 目すべ き動 きとして以下の ものがあげられ る。
まず、第一 に、厚労省 は専門委員会の報告 を受 けた形で、以下のような基準 の改定 と実施要領 の改定 を行なった。
・ 母子加算の見直 し(子供 の年齢要件 を18歳か ら15歳へ)
・ 高校就学費用の給付
・ 多人数世帯 (4人以上世帯)の基準額抑制
・ 若年層の1類費年齢 区分 の見直 し
・ 老齢加算の段階的廃止 (第二段階、3760円へ)
・ 実施要領改定
これ ら具体的な点 については、実施機関である福祉事務所で働 く人たちの立場か ら、詳細 な評 価がなされている14。
第二 に、老齢加算縮減・ 廃止 に対す る訴訟が京都 と秋田で起 きている。 この訴訟 は最低生活費 の現代的な見直 しを求める運動の出発点 になるだろう。
第二 に、 自立支援 プログラムの具体化 にむけて以下の準備が行 なわれた。
・ セーフティー・ ネ ッ トッ ト支援対策等事業費補助金 (136億円)
・ 就労支援 コーディネーターの配置 (100名)
・ 就労支援ナ ビゲーターの配置 (52名)
・ 全都道府県における協議会の開催
その上で、 自立支援 プログラムが 6月 か ら全国的に実施 され始 めている。生活保護が自立支援 に軸足 をどのように移 してい くのか、包括的な検討が必要である。
第四に、生活保護費国庫負担金の負担割合引 き下 げをめ ぐる駆 け引 きは、政治の世界へ議論の 場が移 っている。 これが どう決着す るかで生活保護の実際の運用 は大 き く影響 され るのである。
こうした動 きのなかで、あらためて専門委員会の議論 を振 り返 る必要が出てきている。
(続く)
14全国公的扶助研究会「生活保護制度の在 り方に関する専門委員会報告 とその後の『改革』の動向について 一現 時点における私たちの評価 と見解」(案)『公的扶助研究』第198号2005年7月 、pp.5‑34
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